クライアントに影響が及ぶ前にインシデントを検知:プライベート不動産クレジットプラットフォームのMarshallZehrによる、Grafana Cloudを活用事例
プライベートな不動産融資の分野において、優れた実績をもたらすことができるかどうかは、情報の有無が大きなカギになります。問題の予兆をいかに素早く察知できるか、その発生源をどこまで鮮明に追跡できるか、そしてシステムの健全性を確信を持ってクライアントに示せるかという点が、ビジネスの成否を分ける極めて重要な要素となります。
カナダの不動産融資会社であり、オンタリオ州ウォータールーを拠点とする非上場のモーゲージブローカー兼管理会社でもあるMarshallZehrは、これまでに500件を超える取引を通じて、45億ドル以上の資本を投じてきました。同社はビジネスの強固なバックボーンとして機能する独自の住宅ローン管理プラットフォームを自社運用しており、このシステムを支えているのが、デスクトップサポートからインフラ管理、DevOps、セキュリティ、さらには継続的なプラットフォーム開発までを一手に引き受ける、わずか4人の少数精鋭のテクノロジーチームです。
Nicholas Armstrong氏が最高技術責任者(CTO)として就任した当時、同チームにはオブザーバビリティに関する戦略が全く存在していませんでした。しかし現在では、フルスタックにわたってGrafana Cloudを全面的に導入し、システム全体の確実な可視化を実現しています。
現在のMarshallZehrは、ユーザーからの不具合報告を待つだけの受動的な運用を行っていません。スタック全体から収集されるテレメトリデータを原動力としたプロアクティブなアラート機能により、インシデントへの迅速な対応体制が構築されました。これにより、システムの異常な挙動をエンドユーザーに影響が及ぶ前に検知することが可能となっています。
不動産融資ビジネスにおいて、この劇的な変化は単なるエンジニアリングの改善に留まりません。クライアントが不利益を被る前にインシデントに対処できる能力は、単なる運用の効率化を超え、インフラ投資によって裏打ちされた「サービスの品質保証」そのものと言えます。
Armstrong氏は、「アラート機能の導入によって、極めて高い俊敏性を手に入れることができました。もうユーザーからの不具合の報告を待つ必要はなく、テレメトリデータに基づいて問題を能動的に察知し、ビジネスへの実質的な影響が出る前にSREのアプローチで迅速に対処しています」と、その大きな成果を強調しています。
ゼロからのスタート
Armstrong氏が引き継いだ当時の状況は、誰かの怠慢というよりも、むしろ会社が急成長を遂げるプロセスで自然と生じた課題でした。プラットフォームの一部ではログをGraylogに送信して分析を行っていたものの、ツールの利用頻度は極めて不均一であり、システムに障害が発生した際のデバッグは、各アプリケーションサーバーに直接アクセスする非常に手間のかかる方法に頼らざるを得ませんでした。メトリクスを収集するレイヤーが存在しなかったため、応答時間やシステム負荷は完全にブラックボックス化しており、システムの「正常値」となる比較基準すら存在しませんでした。
問題は常にユーザーからの指摘によって初めて表面化していました。
Armstrong氏は当時を振り返り、「ログに関する統一された戦略がなく、メトリクスに至っては一切存在しない状態でした。アプリケーションの挙動が全く不透明だったこの状況こそが、新たな監視プラットフォームの導入を決断した最大の要因です」と語ります。
3倍の規模のチームでも困難なほどの重責を担う4人のメンバーにとって、この情報の欠如は致命的な足かせとなっていました。テレメトリがなければ、処理のボトルネックを定量化することも、障害の発生源を特定することもできず、システムに加えた変更が本当に改善に寄与したかを実証することすら不可能だったためです。データに基づく技術的決定が下せないまま、改善の効果を測定する術もなく、チームは自社システムという暗闇の中を手探りで進むことを余儀なくされていました。
着実なファーストステップ
Armstrong氏は、この可視性のギャップに対して極めて計画的にアプローチしました。まずはプラットフォームに対象を絞り、Amazon ECS上で自社運用のPrometheusとオープンソース版のGrafanaを稼働させるという、スモールスタートで始めました。最初から網羅的な監視を目指すのではなく、自らが信頼できる確固たる技術基盤の上で、限定した範囲から価値ある知見を得ることを優先しました。
この初期ロールアウトは、監視の価値を瞬時に証明することになります。ダッシュボードを通じて応答時間を克明に可視化し、システム負荷の傾向を把握したほか、ログデータとシステムメトリクスを相互に関連付けて分析できる、かつてない環境が整いました。
しかし、導入から数ヶ月が経過すると、別の課題が浮き彫りになり始めます。監視インフラ自体の運用保守にかかる負荷が、チームの大きな負担となってしまったのです。アップデート対応や信頼性の維持管理に追われることは、インフラやセキュリティ、新規機能開発を同時に兼任する4人のチームにとって、人的リソースの致命的な分散を意味していました。
この運用のオーバーヘッドを解消するため、彼らはマネージドサービスであるGrafana Cloudへの移行を選択しました。
Armstrong氏は、「フルマネージド型のソリューションに移行したことで、極めて高い信頼性と運用の手軽さを手に入れることができました。保守作業から完全に解放されたことは、投資に対して非常に大きな価値をもたらしています」と語っています。
フルスタックでの可視化の構築
自社運用の負担が消え去ったことで、チームは監視範囲を迅速に拡張しました。ログ管理、統合可視化、そしてメトリクスの長期ストレージとしてGrafana Cloudの全機能を導入し、バラバラのツールやサーバーへの直接アクセスに頼ることなく、初めて単一のプラットフォーム上でインフラ全体を見渡すフルスタックのオブザーバビリティを確立しています。
なかでも大きな変化をもたらしたのが、テレメトリ信号の収集、処理、および送信を行う「Grafana Alloy」の採用でした。以前の監視構成では、中央のPrometheusサーバーがインフラ各部からメトリクスを引っ張ってくる「集中型スクレイプ方式」を採っていましたが、Alloyの導入に伴い、各アプリケーションやホストインスタンスが自立的にメトリクスを取得してGrafana Cloudへ直接プッシュする「分散型モデル」へとシフトしています。
このアーキテクチャの刷新は極めて本質的な意味を持っています。分散型の収集モデルに移行したことで、テレメトリの伝送経路における単一障害点が排除され、システム規模の拡大に伴う処理のボトルネックも解消されました。さらに、新規サービスの追加時には各サービスが自立的に計装を行うため、中央の設定ファイルを都度書き換えるメンテナンスの労力も大幅に削減されています。小規模なチームが急速に成長するプラットフォームを維持する上で、こうした泥臭い運用保守を削減できたことは、より高付加価値なコア業務に集中するために絶大な効果を発揮しています。
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運用のスマートな変化
オブザーバビリティを一つのプラットフォームに統合した効果は、目に見えにくい部分でもチームのパフォーマンスを底上げしています。ツールが削減されたことで、画面をあちこち切り替えるコンテキストスイッチが激減し、データが統合されたことでインシデント発生時のトラブルシューティングは圧倒的に高速化されました。こうして監視インフラの保守においてリソースが節約できた分を、プラットフォームの機能改善や新機能の開発へと直接再投資され、ビジネスの推進に大きく貢献しています。
また、Armstrong氏が率直に語るように、この取り組みは競合他社に対する決定的なアドバンテージともなっています。非公開の住宅ローン管理・融資を扱う業界は、お世辞にもIT技術の導入が進んでいるとは言えません。そのような中でMarshallZehrが構築した高度なオブザーバビリティ環境は、競合が持ち得ない圧倒的な運用能力を同社にもたらしました。その結果、リスクを極限まで低減してユーザーの要望に素早く応える体制が整い、他社よりもはるかに少ない人員で、競合を上回る高品質なサービスを提供しています。
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今後の展望
Armstrong氏は、次なるステップのロードマップを明確に描いています。分散トレーシング、継続的プロファイリング、およびフロントエンドの可観測性の導入が、すでにロードマップに組み込まれています。会社規模を考慮するとコスト効率の維持は極めて重要であり、データの無駄な増加を最適化する「Adaptive Metrics」や「Adaptive Logs」といったGrafanaの適応型機能を活用することで、コストの急増を抑えながら監視対象をさらに広げていく方針です。
さらに、この挑戦は技術的なアップデートに留まりません。社内の「開発文化」の変革にも深く関わっています。エンジニア自身が「デプロイしたコード」と「返ってくるテレメトリデータ」の間の強固なフィードバックループを実感し、自分の仕事がインフラに与える直接的な影響を意識できるよう、意識改革を進めています。かつて監視体制が全く存在していなかったMarshallZehrにとって、オブザーバビリティをソフトウェア開発の自然な「一部」として根付かせることこそが、次なるフェーズの目標です。
企業プロフィール
- 業界: 住宅ローン仲介・管理
- 企業規模: 50人以上
- 本社所在地: カナダ オンタリオ州ウォータールー
- 採用製品・プロジェクト: Grafana Alloy、Grafana Cloud、Grafana Cloud Logs、Grafana Cloud Metrics、Grafana Cloud Traces、Grafana Open Source、Prometheus