
Grafana Japanコミュニティオーガナイザーが語る、Grafana Labsが見据えるAI時代のオブザーバビリティ
2026年3月17日に開催された『ObservabilityCON on the Road 2026 Tokyo』は、前回を大幅に上回る来場者数を集め、Grafana Labsの日本への本格投資を印象づける一大イベントとなった。現地参加したGrafana Japanコミュニティオーガナイザーの岡本泰典さん・濱田孝治さん・堀浩史さんの3名が、印象的だったセッションや注目の新機能をコミュニティ目線で振り返ったウェビナーについてまとめた。
Grafana Labsの日本への投資が加速。前回比2倍の来場者数で盛況となったイベント全体の概観
堀さん:今年は会場の熱量が明らかに違いましたね。ブースの装飾も新調されていましたし、来場者数も前回の2倍ほどにのぼっていました。Grafana Labsの日本市場への熱の入り具合が、明らかに上がってきているなという感覚がありましたね。
岡本さん:キーノートの内容を整理してみると、大きく「コスト関連」と「オブザーバビリティ機能そのもの」の2グループに分かれていました。特にコストの話は、Adaptive Telemetryの機能群でまとまっていました。オブザーバビリティ(可観測性)をどんどん進めたいというニーズが高まるほど、当然コストも増加していく。そのトレードオフをどう解決するかというのが、Grafanaとして一番力を入れているメッセージだったと感じています。

岡本さん:Adaptive Telemetryでは、「Metrics(メトリクス)」「Logs(ログ)」「Traces(トレース)」「Profiles(プロファイル)」といった種類があり、メトリクス、ログ、トレースについてはすでにGA(一般公開)されていましたが、今回さらにプロファイルがプライベートプレビューとして加わったことが、改めて発表されました。
濱田さん:そもそも、「Adaptive」という概念について改めて整理しておきましょう。一言で言えば「コストの最適化」です。使われていないデータや重要度の低いデータを自動的に削減し、ユーザー目線で本当に必要なものだけを抽出する。その取捨選択をGrafana Cloud側に丸投げして自動化し、コストを最適化する機能全般を指します。
今回、リアルタイムかつ大規模な継続的プロファイリングが加わったことで、まさに「価値あるデータだけを保持する」ためのピースが揃いました。
堀さん:そういう意味では、トレースとプロファイルが揃ったことで、大きなくくりとしてのAdaptive Telemetryが非常に充実したものになりましたね。
濱田さん:テレメトリとして必要なものは、これでもう一通り揃ったと言えるのではないでしょうか。プロファイルのGAが本当に楽しみです。
"使いこなせる"AIへ。Grafana Assistantが「4営業日に1回」のペースで進化を続ける理由
堀さん:さて、いよいよ目玉の「Grafana Assistant」についてです。

岡本さん:Grafana Assistantは昨年から注目されていたんですが、今回の発表を聞いて「ようやく形になってきたな」と強く感じました。
皆さんもコーディングなどでAIを使っていると思いますが、オブザーバビリティ(可観測性)の現場ではまだ馴染みが薄いかもしれません。しかし運用者からすれば、グラフを見て「これが正常か異常か」を判断したり、トラブル時に「どこを調査すべきか」を特定したりするのは非常に骨の折れる作業です。そこをAIがアシストしてくれるのが、この機能の真髄です。
堀さん:実際、かなり使い勝手が良くなっていましたよね。

岡本さん:そうですね。ダッシュボードの生成だけでなく、今やGrafana内のメトリクス、Loki、Tempoといったデータソースを横断してAIを実行できるのが非常に便利です。的確な情報を返してくれますし、レスポンスも早いのでストレスなくサポートを受けられます。
堀さん:私がこのセッションで一番驚いたのは、「4営業日に1回はリリースしている」という開発スピードの話です。実はブースの準備中と本番披露時で動きが変わっていたんですよ。それくらい進化が凄まじい。
濱田さん:私もこの機能、大好きですね。なぜかというと、運用者がアラートを見て「次、何すればいいの?」と頭を抱える「あるある」の苦労に対し、真正面から答えを出そうとしているからです。
セッションのタイトルもイケていて、要は「オブザーバビリティは『見える化』で終わるのではなく、その先にある意思決定をどう支えるか」がメッセージなんです。見た後にアクションを起こして意思決定をしないと、ビジネス価値には繋がりませんから。堀さん:「見る」の先へ、もう一歩踏み込もうとしているわけですね。

濱田さん:まさに。デモにあった「AIチャットを超えて」というページが象徴的ですが、チャットはUIの一つに過ぎません。アラートの原因究明をAIが日々のオペレーションに組み込み、次のアクションを導き出す。この一連の流れが本当に見事でした。
コスト増を防ぎながら精度を上げるAdaptive Tracesの仕組み
堀さん:ここからは今回のセッションの大きな推しポイントでもあるAdaptive Telemetryの話をしていきたいと思います。オブザーバビリティにおいて、やはりコストの問題は避けて通れません。ユーザーが最も気にされる部分でもあります。今回のセッションでは「トレース」と「プロファイル」の2つにフォーカスされていました。
濱田さん:改めてAdaptive Tracesの位置づけを整理すると、課題は明確です。すなわち、「データの解像度を上げれば上げるほど原因究明はしやすくなる一方で、コストが増大する。だからこそ、価値のあるトレースだけを残したい」というジレンマにあります。実際、ログやテレメトリデータがストレージを圧迫し、コストが急増する問題は、運用現場では頻繁に見られる課題です。

濱田さん:では「価値のあるトレース」とは何なのか。トレースの中には「見るべきもの」と「見なくていいもの」が混在しています。例えば、エラーが発生しているものやレイテンシ(遅延)が発生したりしているデータは、エンドユーザーの体験に影響を及ぼしている可能性が高く、これこそが優先的に把握すべき「価値のあるデータ」と言えます。一方で、正常に完了した大半のトレースについては、すべて保存し続ける必要があるのか、という課題が生じます。このジレンマに対して、Grafana Cloudはポリシーやレコメンデーションといった高度なロジックを活用し、ほぼ全自動で、不要なトレースをサンプリング・削除する仕組みを提供してくれます。
堀さん:これもAI技術を活用して振り分けているような感覚ですよね?
岡本さん:この点において重要なのは、単にデータを自動削除するのではなく、カスタムポリシーを適用して評価している点にあると考えています。そもそも、どのメトリクスやトレースに価値があるのか、人間が判断するのは非常に困難です。Grafana Cloudでは、ポリシーに基づいて統計的にデータを分析し、コストを削減するための提案をUI上で示す仕組みが用意されています。この機能に関しては、Grafana Cloudにおける特に優れた強みの一つだと評価しています。

岡本さん:今回、メトリクス、ログ、トレースがGA(一般公開)になったことに加え、ついにプロファイルが発表されました。まだプロファイルを導入している企業は多くないかもしれませんが、ここが大きな転換点になる気がします。
濱田さん:プロファイルはハードルが高いですよね。メトリクスやログ、トレースまでは普及してきましたが、その先の「コードのどこで時間がかかっているか」まで踏み込むのは設定も解析も難しいものです。
岡本さん:プロファイルは情報密度が極めて高い分、どれがノイズで、どれが価値ある情報かの判別がトレース以上に困難です。今回、それがAdaptive Telemetryの枠組みに入りました。現在はプライベートプレビュー版ですが、デモではコードに対して提案を返してくれる様子が公開されていました。
濱田さん:膨大なデータの中から、何が問題なのかをAI的なレコメンドで教えてくれる機能は、とても素晴らしかったです。

岡本さん:デモでは、特定の関数が頻繁に呼ばれてCPU効率を下げている、といった具体的なコードレベルの指摘がされていました。自分たちで一からチューニング箇所を探すのは難易度が高いですが、ツールがフィードバックをくれるなら、改善に向けたハードルはぐっと下がります。
堀さん:結局のところ、トレースやプロファイルといった機能は、いずれも「全体のコストを下げるための施策」として提供されているということですよね。少し意地の悪い見方をすれば、Grafana Cloudとしては、データをすべて送ってもらったほうがストレージ利用料の面で収益につながるはずです。それにもかかわらず、ユーザーの「コストが増大している」という悩みに真正面から向き合い、最適化のためのツールを提供している点は、非常に好印象です。
岡本さん:おっしゃる通りですね。Grafana Cloudの管理画面では、コストが常に可視化されており、透明性が高いと感じます。「どこにコストがかかっているのか」「それは適切な投資なのか」をユーザー自身が把握し、主体的にコントロールできる。そのようなプラットフォームであることが、Grafana Cloudの大きな魅力の一つだと改めて感じました。
「計装の手間」を解消するInstrumentation Hubの登場
堀さん:ここからはOpenTelemetry(OTel)について振り返ってみたいと思います。基調講演では詳しく触れられませんでしたが、翌日のミートアップにも登壇されたテッド・ヤングさんのセッションは非常に注目度が高かったですね。

岡本さん:そうですね。OTelは今や、オブザーバビリティのスタンダードなオープンソースとして定着した感じがあります。共同創設者の一人であるテッドさんは、セッションの中で「OTelは最高だ。でも、実際に展開しようとすると話は別だ」と、現状の課題を指摘されていました。
特に、テレメトリを取得するための設定を手作業で行うのは「苦痛」以外の何物でもないと。パーツが多すぎて、まるで「レゴセット」を組み立てるような複雑さがある、とおっしゃっていましたね。
濱田さん:最近は「計装(Instrumentation)」という言葉をよく使いますが、これは要するにアプリケーションにオブザーバビリティの仕組みを組み込む作業のことですよね。テッドさんのメッセージは、「お前ら、計装に時間をかけすぎなんだよ」という強烈な一言から始まっていたのが印象的でした。

岡本さん:規模が大きくなるにつれて設定は複雑化し、メンテナンスも困難になります。そこでテッドさんが掲げたのが「ワンクリックの体験にまとめられないか?」という問いです。そこで登場するのが、テッドさんがいつも使う「マズローの欲求段階説」のような四角錐のピラミッド図です。

岡本さん:全ての土台となるのは「インフラストラクチャの可視性」で、ここを支えるツールが新しく登場した「Grafana Alloy」です。PrometheusやLokiといった既存のGrafana製品群も含め、これ一個に集約して送れるのが大きな特徴です。

濱田さん:以前は「Grafana Agent」と呼ばれていたものが、今はGrafana Alloyに統一されましたよね。Macのリソース連携などでセットアップを試した時も、「とりあえずこれを入れておけば何とかなる」という安心感がありました。

岡本さん:このGrafana Alloyがインフラの土台を担います。そして、土台ができたら次はサービスの可視性です。ここで出てくるキーワードが「OBI(OpenTelemetry Beyla Instrumentation)」です。元々Grafanaが作っていた「Beyla」というeBPFベースのツールがOTelに寄贈されたものです。
濱田さん:eBPFは最近のコンテナ・オブザーバビリティにおける最重要キーワードの一つですね。これを使うことで、アプリケーションのソースコードを書き換えずに計装できる(ゼロ計装)というわけですね。

岡本さん:その通りです。さらにその上の階層の「深いインサイト」を得るためには、OTelのSDKやライブラリを活用します。こうした多層的な仕組みを統合し、ユーザーが複雑な設定を意識せずに済むようにリリースされたのが「Instrumentation Hub」です。
Alloyが入っていることが前提ですが、Kubernetes周りも含めて一つのプラットフォームで監視できるのは強みです。ただ、モニタリング機能としてはまだ進化の余地がありそうで、今後のアップデートに期待したいですね。

岡本さん:一方で、すべての環境がAlloyだけで完結するわけではありません。そこで新しく発表されたのが「Fleet Management」です。純正のOTel Collectorを使っている環境も含めて、Fleet Managementが後ろ側で「フリート(群)」として統合管理してくれるんですね。ダッシュボード上でコネクターのタイプとして「Alloy」か「OpenTelemetry」かを選んで管理できるようになります。これによって、承認要求(マズローのピラミッド)の下層から上層までを網羅しようとしているわけです。
濱田さん:なるほど。ピラミッドの下の土台は固まったけれど、まだ一番上の「AIドリブンなフィードバックループ」や「ビジネス価値への直結」といった高度な要求には未達成な部分がある。だからこそ、Adaptive Telemetryやライブラリの拡充を頑張っていくんだ、というストーリーですね。
堀さん:テッドさんの「欲求追求」はまだまだ続くということです。
OSSとビジネスの両立がGrafanaの強み。コミュニティとして伝え続けていきたいこと
濱田さん:改めて考えると、私はやっぱり、Grafanaのことが好きだと感じます。オブザーバビリティプラットフォームなのにすごくオープンソース(OSS)なんです。各コンポーネントはベースがOSSで、いろんな人がコントリビューションできる。ビジネスとしての提供と、みんなで育てていくOSSのカルチャーがうまく組み合わさっているのが、Grafanaの一番の好きポイントですね。今日喋ってて改めてそれを実感しました。
岡本さん:今回を通じて感じたのは、AIによるオブザーバビリティの推進という方向性が、かなりはっきりしてきたということです。SREやDevOpsチームの人的リソースとコストをどう最適化するかという課題に、AIソリューションが現実的な答えとして機能し始めている。Grafana Cloudにはオープンソース版では使えないAdaptive Telemetryのような強みのある機能が揃っています。まだGrafana Cloudを試したことがない方にも、まずは個人開発の環境から試してみてほしいですね。堀さん:我々コミュニティとしても、今後もミートアップやLTの場でGrafanaの最新情報をお届けしていきます。皆さんもぜひ、ユースケースを持ち寄って一緒に盛り上げていただけると嬉しいです。